この恋、きみ色に染めたなら




『肇も紗季と過ごしてきた時間があるからこそ、紗季と紗希ちゃんが違う人だって分かってると思う』





『……そうですね。

 きっと先輩は私と紗季さんの区別、出来てると思います…』








私の名前を呼ぶ時、


私の手を引く時、


私をモデルとして描いてる時、


どれも、どの瞬間も、私と紗季さんを重ねることなんて、きっとなかった。









『だから、きっと先輩は最初に言ったんだと思います。

 俺を好きになるなって、そう言ってくれたんだと思います』






『……え?』






『先輩はずっと紗季さんを想ってきた、先輩には紗季さんじゃなきゃダメなんです。

 紗季さんしか先輩の心に入ることは出来ない、だから先輩は好きになられても応えることが出来ないって最初から言ってたんだと思います…』






だから先輩は最初にそう言ったんだー…



心の中に、ちゃんと想ってる人がいるから。


その人以外の想いを受け取ることはできないから。







最初からそのことに気が付いていれば良かった。




そうしたら、そうしたら先輩のこと好きにならずに済んだかもしれないのに…










『紗希ちゃん、肇、“好きになるな”って言ったの?』





『………はい、モデルとして描いてもらう条件で、そう……』





『紗希ちゃん、肇は紗季を想ってるからそう言った訳じゃないと思うよ。

 肇はね?人を想うことも想われることも怖いんだと思うの…。

 あの子が紗季への想いに気付いたのはあの子の葬儀の時だったから…』










……え……?



















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