この恋、きみ色に染めたなら
『紗希』
もう一度、先輩が私の名前を呼び、先輩の方に振り返るも、先輩の顔が見れず…
一気にその場から逃げ出したい気持ちになり、廊下を猛ダッシュした。
『紗希!?』
先輩の叫びが後ろから聞こえたけど、私はそのまま走り続けた。
階段の踊り場まで来たところで、
『紗希!』
と呼ばれ…
私の方が走り始めたのが速かったのに、いつの間にか先輩に追いつかれていたみたいで。
先輩はいつものように私の手を引いた。
あまりの勢いだったからか、手を引かれた反動で私は先輩の方に振り向く形になる。
一瞬だけ、先輩の顔を見たー…
『てか何?
なんで走ってんの?』
息一つ乱していない先輩の静かな問いかけ。
ちゃんと耳に聞こえているはずなのに、唇が動かない。
『走って逃げて、今度は無視?
なに考えてんの?』
少しずつ先輩の声が荒くなっていくのを感じる。
でもそうなればそうなるほど唇が震えだす。