うさぎのアンちゃん。
香る夕日
この冬は、リンちゃんがそばにいてくれたおかげで、安全に安心に、そしてとても楽しいまいにちでした。

さむいさむい季節も、雪がだんだんと溶けはじめてきて、カモノハシたちもチョウチョも外に出はじめました。

アンちゃんはだいすきなお花が咲きはじめるこの季節がだいすきでした。

アンちゃんはみんなと一緒にお花畑に行きました。

そのお花畑は、まるで〝雲のじゅうたん″のようにシロツメクサでいっぱいでした。

アンちゃんは大喜びで、さっそくかんむりをつくりはじめました。

かんむりがうまく作れないリンちゃんにも教えられるくらいにアンちゃんはとても上手になっていました。

リンちゃんは、

《アンちゃんすごいね! とっても上手よ! お星様もきっとびっくりするわ》

といい、アンちゃんは

「早く夜にならないかなぁ」

と、ニコニコとかんむりを編みつづけました。

その日の夜アンちゃんはさっそく、現れたお星様に一番上手にできたかんむりを見せました。

【本当に上手になったわね、アンちゃん! 本当にすごいわ! 】

「お星様と〝約束″したんだもの! 上手になれるように、ずっとつくってきたの」


お星様はハッとしました。


【そうよね、約束したんだものね...。
ねぇアンちゃん、私がアンちゃんのもとへ降りて行ったら、嬉しい...? 】

と聞くと、「もちろんよ! 」とアンちゃんは元気よく答えました。


【ありがとう、とってもとっても嬉しいわ】

と言って、お星様は流れ星になり、アンちゃんのもとへと行きました。


キラキラかがやくお星様がアンちゃんを包んだとき、

【本当に上手ね! アンちゃん、本当にすごいわ! 】

と光の中から声がしてきました。

「すごいでしょう? お星様にも、作り方を教えてあげるわ! 」

【アンちゃん...。あなたは本当に優しい子。みんなに愛される子。アンちゃん、私はそろそろ行かなくてはいけないの。でも、アンちゃんならもう大丈夫ね? 】

「どこにいくの? お星様! ダメよ! そばにいてよ」

と、悲しい顔をしています。


お星様は今までよりもずっと優しく語りかけます。

【ちょっとね、行かなくてはいけないところがあるのよ。私もさみしいけれど、〝今度はアンちゃんの近くにいれますように...″】


アンちゃんは、お星様の言うことがあまりよくわかりませんでした。


お星様は降りてきて〝流れ星″になりました。



流れ星は、同じ場所にはいれないのです。


でもアンちゃんは、そのことは知らなかったのでした。


泣きそうなアンちゃんの顔をみて、お星様はこう言いました。


【お願いだから、かなしまないで? 大丈夫よ〝私が私じゃなくなっても″私はずっとアンちゃんを見守っているわ。シロツメクサはね〝約束″っていう意味なのよ。アンちゃん、また会いましょうね。〝約束″するわ】

と、アンちゃんのシロツメクサのかんむりを受けとると、夜空を泳ぐように移動して、遠くの空でキラリと光り、その姿はなくなってしまいました。


くる日もくる日も、アンちゃんはお星様を待ちました。


くもで空が見えない日も、あらしのような雨の日もずっとお星様を待ちつづけました。

そしてある日、ポカポカ気持ちがいい晴れた日に、アンちゃんはお花畑にいました。

ぼぅっとして、かんむりをつくる手がとまっていました。

お星様に会いたい、会いたい! と心の中でずっと願っていました。


お日様がだんだんと沈んでいき、空がきれいな夕やけになりました。

「私がわがままを言わなかったら、ずっと一緒にいれたんだわ、きっと...」

と、アンちゃんのまぁるい目から大粒の涙がぽろっと落ちた時、

【アンちゃん、かなしまないで? 】

と、きこえた気がしました。

アンちゃんはキョロキョロとまわりを見わたしましたが、誰の姿もありませんでした。

「そうね、お星様と〝約束″したんだもの。また会いましょうって。それまでにもっと上手になるんだもん」

と、かんむりをつくりはじめました。


春の気持ちがいい風が、お花畑のいいかおりを運んでいます。


「きっと会えるわ」

そう言ったアンちゃんのそばには、たくさんのシロツメクサの花が咲いているのでした。


fin.

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