鬼伐桃史譚 英桃

 そこまで言うと、若い男は白の柄に三尺もの大太刀を女に差し出した。



 間違いない。常人には扱い辛い長さのこの大太刀は、妻である自分がよく知っている。生前、夫が片時も離すことの無かった太刀だ。




(――貴方……)

『封印』と、若い衆はそう言った。それはつまり、大鬼を完全に退治できなかったということを示している。大鬼はそう遠くはない内に必ずまた復活し、この世を混沌へと誘うだろう。そうなった刻、自分はまた、誰かの命を差し出さねばならないのか。


 そしてその命とは、この里の主だった夫の子。自分が腹を痛め、生んだ英桃に違いない。



 菊乃は両の腕の中にいる赤子を強く強く抱きしめ、これから起こるであろう未来に不安を抱き、ただただ静かに三尺もある刀を握った。





―序章・完―
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