鬼伐桃史譚 英桃

「さようさよう。しかし……世も無常(むじょう)ですなぁ。あの、お美しい姫君に鬼が封印されているとは……」

「なんでも、御年(おんとし)に鬼が封印を解きにやって来るとか」

「いやいや、こちらには梧桐殿がいらっしゃる。恐れることはありませんぞ」

「そうですな。梧桐殿なら鬼に金棒でしょうて。ですな、梧桐殿」

 家臣たちに訊(たず)ねられ、地獄の果てにいた梧桐は我に返った。


「お任せください。鬼など我が前にひれ伏してご覧に入れます」


 先ほどの物悲しい雰囲気はどこ吹く風。梧桐は拳をつくると胸を叩き、力強く頷(うなず)いた。


 この梧桐、かなりのお調子者であったことは言うまでもない。



「これは頼もしい。我々は安心して暮らせますな」


 そうして梅姚姫を自分の妻に迎え入れるのだと、下心見え見えの梧桐は元近の家来たちと共に雲ひとつない晴天の空を見上げ、声を高らかにして笑うのであった。


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