鬼伐桃史譚 英桃

「茜(せん)、いったいどうしたんだ?」

 英桃は薄い唇を開き、自分を探していたであろう男の子の名を口にすると、ひょいと身軽に高い木の枝から飛び降りた。

 地に足を着き、茜を見やれば、彼の両手には取ったばかりだろう、あふれるほどの瑞々(みずみず)しい赤い林檎を両手に抱えている。

「よう、英桃」

「茜、その林檎。どうしたの?」

 英桃が茜に訊(たず)ねると、茜は、へへっと自慢げに笑って英桃に真っ赤に熟(う)れた林檎をひとつ手渡した。


「今日の戦利品だ。やるよ」


「えっ?」

 戦利品とはいったいどういうことだろう。家人の手伝いで手に入れたものにしては多すぎる。

 彼は心根は優しいのだが、いかんせん自由気ままな性格である。気まぐれで誰かの役に立つにしては、やはり何かがおかしい。それに自慢げな態度も気になる。

 疑い深く手渡された真っ赤な林檎と白い歯を見せて笑う茜を交互に見ていると……。


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