鬼伐桃史譚 英桃

第三話・百鬼島




 突然の浮遊感が梅姚(ばいよう)を襲う。直後、彼女の細い体に重力がのし掛かる。そうかと思えば梅姚は荒れた平地に振り落とされた。



「――――」


 果たしてここはいったいどこであろうか。先ほどまではたしかに赤々と燃える炎の渦と人々の悲鳴ばかりが木霊していた。しかし今はどうだろう。ここは野外でどんよりとした空は分厚い雲に覆われ、月は見えない。

 虫の音は一切聞こえず、あるのは引いては寄せる波の音ばかりだ。

 針葉樹が細々と生えている程度のここがどこなのかは誰にも訊かなくともすぐにわかった。

 おそらくこの地こそが、あの呪われた場所――百の鬼が住むと言い伝えられている百鬼島(ひゃっきじま)であろう。

 梅姚は自分が畏怖しているということをこの場にいる誰(たれ)にも気取られぬよう、口内に溜まった唾を静かに飲み込んだ。



「我らの島百鬼島へようこそ。麗しき姫君」

 梅姚の目前に佇む女(め)の鬼は口の端にある鋭い犬歯を見せつけるようにしてつり上げ、て喜々とした笑い声を上げた。


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