忍び寄るモノ

「先ほどご自宅までお送りさせていただいた頼成です。落ち着いて聞いて下さい──あなたのお母さんが何者かに襲われて軽傷を負いました」

「そんな……! お母さんは大丈夫なんですか!?」

お母さんが襲われた。その言葉に体が一気に冷たくなっていく。

私は震えだした左手にスマホを落とさないよう右手で手首をつかんで支えるようにする。

「腕に切り傷を負いましたが幸い軽傷で命に別状はありません」

「そうですか……」

よかった……。

明だけじゃなくてお母さんまでいなくなったら私もお父さんもきっと今まで通りでいられない。

「これから自宅までお送りさせていただきます。ご心配でしょうが家の中でお待ちください」

「はい、分かりました。よろしくお願いします──」

通話を終えて私は力が抜けた体をソファーに沈めてふーっと長い息を吐く。

スマホは左手に持ったまま、ソファーの空いている場所にだらんと腕を置いた。

こうして家族が襲われたって自分が体験すると人の話を聞いたどころじゃないって改めて思う。

無事って分かっても心臓がドキドキして息苦しささえ感じて。

荒木先輩の家族の人も安田君の家族の人もきっとこれ以上に苦しい気持ちなんだと思う。

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