大海原を抱きしめて
9.悪性の恋煩い


9.悪性の恋煩い


うだるような夏はあっという間に過ぎて、残暑の候。

冬もいきたい観光地。

そんなスローガンが掲げられていることを、私は最近完成した村のパンフレットを見て初めて知った。

観光シーズンである夏が終わると、徐々にお客さんは減っていく。

その流れに歯止めをかけるために、村をあげて秋冬の観光に力をいれていく動きが、これから増えてくるらしい。

私はというと、たまにツアーの補助に駆り出されたり、夏のイベントのお手伝いをしたりと、なにかと忙しい夏を過ごした。

笠岡さんはなにもなかったようにいたって普通で、私がいろいろと気にしていることがバカみたいに思えてくるくらい。

最近覚えた、"今日はのみたい気分"という言葉は便利で、使ってしまう私の弱さよりも、考えたくないことは飲んで忘れられる、その感じが心地いい。


「香乃、最近いい意味で変わったよね。なんかオープンになった」


安全運転で1時間ほどの町に、茉莉と同じく、幼稚園からの親友、可南子がいる。

大学を出て、就職して2年目。

最近休みの度に通って、お酒を飲むようになった。

例によって今日も、可南子の都合が良かった。

仕事終わりに直行して、飲んで、独り暮らしをしてる可南子の部屋に一泊。

そして次の日ゆっくり帰ってくる、という休日を、最近ずっと繰り返している。

飲めればいい。酔えればいい。そして、思う存分語るのだ。
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