大海原を抱きしめて



今日の主役とは、あまり話さない。

加藤さんや桜庭さん、未穂ちゃんは上手に相手してるけど、私は仕事してるふりしてスルー。

仕事に関わる大事な話はするけど。業務連絡とか。

別にそれ以上踏み込んでは来ないし、私も踏み込もうと思わないし。

ため息がでた。

あと1時間。私はここに拘束されなければならないことも相俟って。

それならいっそ、仕事が終わったら帰ってしまいたい。

そう思いかけた思考を遮るように、私のケータイが鳴った。

少しだけ懐かしい名前の着信。


「香乃!元気してた?」

「陽輝(ハルキ)こそ!どうしたの、急に」


生まれたときから高校までずーっと、腐れ縁。

幼馴染みで、もはや家族みたいな仲の陽輝は、上野さんの息子でもある。

小学校の先生になるのが小さい頃からの夢で、今は隣町で講師として学校で働いている。
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