ラグタイム
そう思ったあたしに、
「やっぱ、夕貴も女だったんだなって思って」

藤本さんは呟くように言った後、グラスの中のお茶に口をつけた。

「はっ?」

あたしは訳がわからなかった。

女だったんだなって、一体どう言う意味なんだ?

「『ラグタイム』では朝貴の双子の弟――男として働いてることを忘れてた。

自分がそうするように言ったのに、自分で忘れてた」

藤本さんはまたグラスの中のお茶を飲み干した。

あたしは頬に自分の手を当てた。

「勘違いしてんじゃねーよ。

俺が勝手に忘れてたんだからな」

「か、勘違いって…」

頬に当てていた自分の手を下ろすと、藤本さんから目をそらした。

代わりに、空っぽになった彼のグラスにお茶を注いだ。
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