オキクの復讐
「言ってることがむちゃくちゃだな…。心配ごとでもあるのか?」
「ストレスがそれなりにね。」
「今の部署がつらいなら、もっと楽な部署への異動を、お前の会社の役員にお願いしてやるぞ。」
「余計なことしないで。大丈夫だから。」
 義父のおせっかいを迷惑がる表情を見せながらも、母と同様に、義理の娘にも思いやりを見せてくれる義父に希久美は感謝した。
「青沼取締役。遅くなりました。」
 突然希久美たちのテーブルに見知らぬ青年がやってきた。
「おお、来たか。まあ座りたまえ。」
 義父は、希久美と対面する席をその青年に勧めた。希久美は驚いて、義父と青年を交互に見やっていたが、やがて事態を理解して、冷たい横目視線を義父に投げかけた。義父は希久美の機嫌を盗み見しながら、青年に話しかける。
「石嶋くん、紹介するよ。私の娘の希久美だ。」
 石嶋は緊張した面持ちで希久美に挨拶した。
「希久美。石嶋くんだ。彼はわが社の社員で、将来経営への参加を嘱望されている優秀な人材なんだよ。」
 希久美は、しばらくの沈黙の後、義父への冷たい視線のロックを外して、石嶋に微笑みかけながら挨拶をした。少し安心した義父は、言葉を続ける。
「石嶋くんはね、仕事もそうだが、思いつきとか即興で物事を動かさないタイプなんだ。その点、希久美とは気が合うと思うんだが…。」
 義父に恥をかかせるわけにはいかなかった。希久美は、笑顔を崩さず、その場は楽しそうに石嶋と義父との食事をこなしたが、こころはまったく別なところに行っていた。泰佑に再会して以来、何をしていても、もう希久美のこころに平安なんて文字は見つからない。

 数日後のオフィス、得意先の東京事務所から戻る廊下で歩きながら、希久美は田島ルーム長に食ってかかっていた。
「ルーム長、今さらスタッフを外注できないなんて言わないでくださいよ。」
「仕方ないだろう。県の商工観光課が補正予算を取れなかったって言うんだから。他に扱いがあれば原価を回せるが、単発だしな。」
「どうするんですか。私一人じゃこなせないですよ!」
 希久美の抗議に、田島ルーム長しばらく考えて代替え案を思いつく。
「お前のアシストにうちの社員をつけるのはどうだ?」
「えーっ、みんなそれなりに、忙しいのに。」
「金が無いんだから、仕方が無い。なっ、そうしよう。」
「でも…。」
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