弾・丸・翔・子
 翔子のブラウンに輝く瞳の眩しさに目を細め、哲平はつくづく思った。彼女をバイクから降ろすような男なんて、本当に存在するのだろうか…。
「ほら、お父さん立って。帰るわよ。」
「ああ、それじゃ哲平君、次郎君。申し訳ないが、お先に失礼するよ。」
 先生は机に千円札を何枚か置くと、多少酔いが回って危なっかしい足取りに、翔子が肩を貸しながら店を出ていった。俺もああやって翔子の肩を抱いて歩けたら、どんなにか幸せだろう…。哲平は、盛んに話しかけてくる次郎に構いもせず、いつまでも先生と翔子の後ろ姿を見送っていた。

「遅かったじゃない。」
 家ではすでに、叔母が居間にあがりこみ、勝手にお茶を煎れて飲んでいた。この家では叔母のすることに、何人たりとも文句を言えない。なぜなら、翔子が小学校の時に母を亡くして以来、叔母が翔子の母代りとなり育ててくれた恩がある。その後、大好きな兄が亡くなるという大きな不幸を、なんとか乗り越えてこられたのも叔母のお陰だ。
「居酒屋で容疑者を確保し、連行してまいりました。」
 敬礼しておどける翔子を見ながら、叔母は優しく笑う。残念ながら子どもに恵まれなかった叔母にしてみれば、翔子は我が娘同然である。幼い頃から母親に代わり、銭湯に連れて行き、運動会、入学式や卒業式はもちろん参観して、翔子の成長をずっと見守ってきた。時には叱り、時には慈しみ、様々な喜びや悲しみもともに分かち合ってきた翔子だから、愛おしさもひとしおだ。
「馬鹿なこと言ってないで、ふたりともこっちに来て。」
「膝の具合いはどうだ?まだ痛むか?」
 翔子の父親が心配そうな顔で叔母の横に座った。翔子は父親の上着をハンガーに掛けながら叔母に問いかける。
「確か病院へ行くのは来週よね。」
「ええ、途中で痛み出すと困るから、また付添い頼むわね、翔子ちゃん。」
「任せといて…。ねえ、たまにはバイクで行かない?歩かなくてすむわよ。」
「冗談言わないで、こんな歳のばあさんが足を開く乗り物に乗るなんて…」
「想像するだけでゲロもんだ。」
 父親の軽口にいつもなら応戦する叔母だが、今夜の用事を想い出してとどまった。
「今日はそんな話しをしにきたんじゃないのよ。」
 叔母が机の上にアルバムを置いた。開くと、不自然な笑みを顔に浮かべ、椅子に斜に構えて座る青年が写っている。
「叔母ちゃん、何なのこれ?」
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