咲良と末芽
咲良と末芽の入学式

家が隣同士の幼馴染である咲良と末芽は中学の頃は咲良の母親に
「咲良に悪い男がつかないように末芽君、見張ってて!」
と言われていたため通学は一緒だった。
咲良と一緒に通学できるのは嬉しかった。あの厳しい親公認で俺が一緒にいれる
それだけでも他の男よりも俺が咲良に近いって感じれて学校行くのもそれなりに楽しかった。
だけど、もう高校生。もう一緒に通学出来ないんじゃないかって思う。
それか咲良があの男と一緒に通学するんじゃないかと考えると
その男が憎くなる。告白できなかったのは自分なのに。
そんなことを思いながら支度を終えて外に出ようとしたときちょうどチャイムの音が鳴った。
誰だ?こんな朝からうちを訪ねる奴は
不思議に思って玄関に向かい扉を開けてみると
やけにうきうきした咲良が立っていた。
「末芽!高校行こう!」
「咲良・・・」
中学の時は俺が咲良の家に迎えに行ってた。だけど今日は咲良が迎えに来た。
あの男と一緒に登校するんじゃないのかと思ってたのに。
「学食のこと考えるといてもたってもいられなくなっちゃた!早くいこー!」
咲良が俺のワイシャツの袖を引っ張る。
「俺と、登校するのか?高校生だぞ?」
「え?高校生になったら末芽と登校しちゃいけないの?」
まるで、俺と登校したいというのは自分の意志だと言いたげだった。
「・・・なら、私学校行かない」
拗ねたように咲良はその場にしゃがみ込んだ。
咲良自身がそういう気持ちでいてくれてるってだけで嬉しかった。
たとえ、咲良があの男を選んでいたとしても。
ふっと笑顔になってしまった。そして俺は咲良に言う
「それはお前の母さんに俺が怒られるから、一緒に行くか」
そういうと、咲良は顔を上げて「うん!」とうなずいた。




凪高の門は新入生と思われる生徒であふれていた。
門の前にはクラスが張り出されていたからだ。
俺たちも人ごみをかき分けてクラスを見に行った。
咲良が離れないように手をつないで。
「・・・あ!末芽と一緒のクラスだー!」
「本当だ」
中学の時はクラスが離れていて咲良の様子を知ることは無かった。
俺は少し優越感に浸った。
「末芽、いこ!」
咲良がつないだ手を離さずにそのままクラスへ向かった。
ガラガラと扉を開けてクラスに入ると視線が俺たちに向かった
一気にクラスがどよめきはじめた。
「入学早々カップル登場かよ・・・」
「リア充爆発しろ!!」
どうやら、咲良が俺の手を離さずに握ったままでいたため
クラスメイトには俺たちがカップルに見えたみたいだ。
「朝からいちゃつきやがって・・・」
その一言に咲良が反応した。
「幼馴染と手をつないで何が悪いの?悔しかったら手をつなぐほど仲の良い人作って手つないで来ればいいじゃない!あと、私と末芽はカップルじゃないよ!勘違いしないで!」
最後の2言が心に刺さったが、咲良はきっと気づいていないだろう。
少し涙目になった俺のほうを向いて咲良は座ろう!と適当な席の椅子を引いて座った。
男子生徒は黙り、女子生徒が俺のほうに視線を向ける。
・・・俺、何もしてないはずなんだけどな

入学式が終わって、クラスに戻った。
担任なにやってんだかすごく遅い。
そんなことをして先ほど座ってた適当な席で頬杖をついていると
数人の女子たちが俺のところにやってきた。
「ねぇねぇ、君名前は?」
「その子と付き合ってないって本当なの?」
・・・デジャヴだ。中学の時の入学式の後にも同じようなこと聞いてきた女子たちがいたな・・・
「末芽。・・・付き合ってないけど」
本当のこと言ってるだけなのに自分で自分を苦しめてる気がした。
それから質問攻めにあった。
両耳の近くにつけているピン留めをいじりながら適当に答えてると
男子生徒の攻撃的な視線を感じた。
・・・俺、何もしてないんだけど
咲良はというと、学校のパンフレットに載っていた学食のメニューを見るのに夢中で
俺のことを気にかけてる様子はみじんもなかった。
それから数分後
担任がやっと入ってきた。
適当な場所に座れーというと俺のそばにいた女子たちが椅子に座らずその場に座りだし
まだ話を続けていた。
・・・しぶといな
気の弱い担任なのかそのまま話をつづけた。
そして、最後の一言
「えー・・・自己紹介とかは自主的にしてください」
めんどくさがりってこともわかった。
俺はこの女子たちをどうにかしてほしかったんだが
結局この女子生徒たちが椅子に座ることはなかった。

今日は入学式ということで席をとりあえず決めてから下校という形だった。
咲良は今日学食が食べれないということで落ち込んでいたが
「帰り喫茶コロボックルでアップルパイ食べよう」
というとコロッと笑顔になり、「うん」と返事してくれた。
喫茶コロボックルのアップルパイは咲良の好物の一つなのだ。
下校も今まで通り一緒。
そんなところをあの数人の女子たちが見て騒いでいたが
そんなこと気にせずに俺は咲良と一緒にコロボックルに向かった。
・・・一人の人影が見てるとも知らずに。
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