君の瞳が映すのは
春 Season1

春風とともに

「ごめん、詩織。」


先程私の入学式が行われた高校の中庭にある大きな桜の下。
私と私の恋人は向かい合っていた
柔らかな風が吹いて、私と彼の髪を優しく揺らす。
そんな中彼が言った一言に、私の心臓が大きく音を立てた。


「ごめんって…どうしたの、紘君。」



私は首を傾げて、わからないふりをする

ほんとは、紘君が何を言いたいかなんてわかっているのに。



その先の言葉を聞きたくなくて、逃げ出したくてたまらない。

でも、逃げちゃいけない。
向き合う時が来たのだと、ぐっと足に力を入れる、


「俺と…別れてください。…好きな人がいるんだ。」


やがて、真っ直ぐに目を見て告げられた言葉に目を伏せる。


…ついにこの日が来ちゃったか


なら、私がいう言葉はもう決まってる。
震えそうになるのを抑えて、私はこう言うのだ。



「わかった。…今までありがとう、紘君。」










紘君のいなくなった中庭で、私は小さく呟いた。


「わかってたはず、なんだけどなぁ」



私と紘君は幼馴染で
一歳上の彼に、私は恋をした。


そうして告白して、付き合うようになって。一緒に過ごすうちに、
不意に気付いてしまった


これが、一方通行の恋であること。



紘君は優しかったから、私の我儘に応えてくれた
私が人より少し体が弱かったのもあるかもしれない


とにかく、私は彼が離れていくことを知っていたし、覚悟を少しずつしてきた。



なのにどうして


涙が溢れてくるのが止められないのだろう。




満開の桜の下で、優しく吹く春風を感じながら、私はただ涙を流していた。








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