心の恋愛事情
「お前さぁ…帰るとき声くらいかけろよ」

「え?」


皆と別れ2人きりになった時、突然祐が話しかけてきた。


「いや、“え?”じゃなくてね。黙って帰るなって」

「え…ごめん、でも祐君達いっつも10時くらいまで話してるから…」

「俺らのことはいいの。こんな夜に女の子一人チャリで帰らすわけにいかないでしょ?」

「…いや、昨日まで一人で帰ってましたが…??」

「………そうゆう細かいことはイイの」


私は笑ってしまった。
彼のそんな小さな優しさがとても嬉しかった。
一緒に帰ろう、と約束していたわけじゃない。今までバラバラで帰っていたのに…一緒に帰ろうとしてくれた彼の気持が優しく届いた。


私の家までは約10分。
少し狭い道を2人して少しフラフラしながら自転車をこいだ。
他愛もない話をしながらの帰り道は、いつもより短く感じさせてくれた。
私の家のすぐそばにある十字路で、私は右に、祐は左に折れた。


「じゃあな」

「ん、ばいばい」


こんな短い別れの言葉でさえ嬉しかった。
いつも静かに曲がっていた十字路が、少し違って見えた。




それから毎日私と祐は一緒に帰ることになった。


< 6 / 51 >

この作品をシェア

pagetop