フィルムの中の君



「飯田先生!!」


優は職員室に戻ろうとする飯田を呼び止めた。
近くにいた数人の教師や生徒たちがこっちを見ている。



飯田は面倒臭そうに振り向くと優を見た。



「何だ宮藤、まだ話があるのか」



昴が追いついたのはこの時で優と飯田が睨み合っているように見えた。
詳しい状況はわからないが不穏な空気であることは間違いない。



優が手を出すのではないかと、
ハラハラしながら昴は様子を見ていた。



「さっきそんな冗談誰が間に受けるか、
と仰いましたよね」



自分の発言を思い起こし、
飯田は短く「あぁ」とだけ返事をした。



「俺を馬鹿にするのは構いませんが、
彼女を甘く見ない方がいいですよ」



「何だよ宮藤、それは俺に喧嘩を売ってんのか?」



「喧嘩…そうかもしれないですね。
でも負けるのは先生、あなたの方です。
彼女の実力は並大抵のものじゃない」



アホな奴らだ、と言わんばかりに飯田は笑った。



「そんなこと言われたって櫻井の実力なんて知らねーよ。生憎演技の経験は無いもんでね」



「彼女が次に出演する映画…
見たら俺が何を言ってるのか理解出来るはずです。
あなたがさっき言ったアクションも、演技力も全て含めて、櫻井昴は一流の女優だと」



「そうかそうか、わかった。
そこまで言うなら観に行ってやる。
でも観て何も思わなかったときは…
俺の勝ちってことだな?」



優が自信ありげに頷くと、飯田は無言ので職員室へと入って行った。
目の前の口論が終わり、糸がプツリと切れたかのように昴は歩み寄る。



「ちょっと優!何言ってるの!?」



「何って…
櫻井昴の実力を語っただけ」



屁理屈!それを喧嘩売ってるって言うのよ!!と怒る昴。



「しかも映画のこと何で言っちゃうの」



優の耳元で小声で怒ると、は?と言う顔で昴を見返してきた。



「まだあの映画の情報
一般公開されてないから!!!!」


無言になり、自分の口が滑ったことに気付く優。
やっちゃった…という表情を浮かべる。



あまりにも迂闊なその行動に昴は呆れて言葉も出なかった。



「もう信じられない…優のばか」



けど当の本人はすでに悪びれる様子はなく楽しそうに笑っていた。



「言っちゃったからには
最高の作品作らないと!な、昴」



(…本当にこの人
あの俳優 宮藤優だとは思えない)





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