『私』だけを見て欲しい
「…そんなに言うなら…ガンバリます…」

まだまだ気持ちがついてこない感じ。
だけど、いい。
とにかく一歩、前に出た。

「…じゃあ、事務処理から引き継ぐ」

顧客名簿は最後。
大事な情報が書かれてあるから、紗世ちゃんの成長が見込めないと渡せない。





「……ふぅ」
「大きなため息だな…」

ハンドルを揺らしながら、山崎さんが笑った。

「ため息も出ますよ…私ずっと、紗世ちゃんから質問攻めにされてたんですよ…」

仕事のことは3割。後は私と山崎さんのこと。

「マネージャーは事務所にいるからいいけど、私なんか彼女の目の前だし、逃げれなくて…」
「いいじゃないか。放っとけば!」
「放っとけませんよ!いらない噂立てられるのヤダし…」
「…いらない噂?」
「マネージャーと付き合ってるとか、そういうの…」

あの子なら言い兼ねない。
まだ何も始まってないのに、噂だけ先回りして欲しくない。
今は秘密にしときたい。

「ふぅん。それはいらない事なんだ…」

しんみりした声出す。
だから、それは違うんだって…。

「あの…それは……」

紗世ちゃん対策で、本気じゃない…って弁解しようとしたけど…

(笑ってる…)

完全にからかったんだ。

「マネージャー…」

唇を押さえ込む。
どうも、この人のクセみたいだ。

「結衣、職場じゃないから」
「あっ…」

会社を出たら、コイビトの顔。
そうしようと決めたんだった。
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