『私』だけを見て欲しい
「結衣…」

名前を呼ばれる。
今はトモダチの顔した方がいい?
それとも、コイビトの方…?

「…何ですか?」

勿体ぶってる時はお願い事がある。
彼が今思ってるお願い事は、一体何だろう…。

「…近いうちに俺ん家に来い。会わせたいヤツがいる」
「会わせたいヤツ?」
「そいつとも仲良くなって欲しい。だから、泰も連れて来い」
「た…」

泰って…いつの間にそんな、仲良くなったの⁉︎

「いいか⁉︎ 」
「えっ…あ、はい…」

驚きながら返事した。
顔が喜んでる。
そんなに嬉しいことなわけ⁉︎

「じゃあ帰る。また明日!」
「あ…はい。どうも、ありがとうございまし…」

ちゅっ…って、唇が頬を撫でた。

きゅん…と胸がすくむ。
まさかここで、そんな事するとは思ってなかった…

「あ…あの…」

泰に見られてたらどうしよう。
恥ずかしくて家の中に入れない。

「おやすみ」

バタン…と閉まるドア。
返事するのも忘れた。

エンジンがかけられて車が出てく。
その後をボー…と見送った。


(…ハッ!ヤバい!今、完全に意識遠のいてた…!)

パチパチ…と頬叩く。
こんな顔したまま入れない。
コイビトの顔を息子には見せれない。

(何とかしないと…)

思いつきで始めた草むしり。
今朝のことを思い出した。

『うちのショールームで働いてみない?あなたの力が必要なの…考えといて…』
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