『私』だけを見て欲しい
家族でもない人に情報を漏らすなんて…と思う。
来てくれたことは嬉しいくせに、素直になれずに困った。

「月曜日に連絡しようかと、思ってたんですけど…」

言い訳まじりに話す。
するとはしても、総務を通して…だ。

「それじゃ遅いだろ⁉︎ その間ずっと気にしとけって言うのか⁉︎ 」

ごもっとも。
確かにその通りです…。

「すみません…プライベートな事で心配かけたくなくて…」

上司だから。
あくまでも、この人は。

「バカか!お前は!…そんなの気にするな!」

大声で叱られる。
初めてのことに驚く。
ムッとした顔が近寄ってきて、きゅっと頬をつねった。

「もっと頼りにしろ!その為に俺は、何年もお前だけを見てきたんだぞ!」

信じられない言葉を耳にした。
目の前にいる人が、『私』だけを見てきた…と言った。

「うそ…」

ついそんなことを言う。
嘘じゃないと分かってても、過去の出来事が邪魔をする。

1度には信じられない。
ハッキリと言われてもまだ、疑ってしまう。

「嘘じゃない!嘘だけはつかないと言ったろ!」

…傷つけられてきた。
私だけじゃなく、ひょっとして、この人も……?

「…とにかく俺を頼れ!自分ばかりで一杯になるな!」
「…だって、これは私のことで…」
「大事な人の親だ!…俺にとっても、親と同じだ!」

無茶苦茶なことを言う。
昨日の今日でそこまで言うなんて、どうかしてる。

「マネージャー…それは言い過ぎです…」
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