そのままの君でいて
退屈な毎日…
昼前に マネージャーの迎えで 起こされた。

「愛恵さん、今日はこれだけですから、終わったら エステでも入れときましょうか?」

「…とりあえずいいわ。ありがと。したくなったら、お願いする」

彼女の仕事は、「女優」そして 今のマネージャーに変わってから5年。彼は良く 気が利く。

「わかりました!じゃあ僕車もってきますね。あとは車の中で…」

「わかった!」

彼女は彼の話を聞き終わらないうちに 先にマンションの部屋をでた。
苛ついていた。

ここ 最近の事では なかった。

悪夢… 悪夢ではないのかもしれない。だって、昔も、そして今も 好きな人の夢だもの…。

黒塗りのレクサス。

「堺くん」
愛恵はマネージャーの彼を呼んだ。
「はい?」
「さっきはごめんなさいね。アタシ少しイライラしてる…」
愛恵は窓を全開にして、風を思い切り吸い込んだ。堺は 全く気にした様子もなく
「天下の藤倉愛恵が、そんなことで謝るなんて、不必要ですよ!」
底抜けに明るく笑い飛ばした。
彼は愛恵より5つ下で27歳。年の割に 童顔で 前職はIT企業でバリバリ働いていたらしい。

それが 突然 愛恵の事務所に職替え。タイミング良く 愛恵の担当になった。

彼の明るい性格に 救われる自分にも気付いていた。

「私はたいしたことしてないわ」

本当にそう思っていた。
女優という職業を 天職だと 思える日など 果たして来るのだろうか…。
「そんなこと言ったら、ファンの方々にしつれいですよ。…」

堺は真剣に笑いもせず言った。
最後に 生意気言って すいません と付け加えた。
愛恵は 怒りもせず、ただ 空を眺めていた。

東京の空は、汚い。

まるで 自分の心の 鏡だ…

空は何時かは 晴れる日が来るだろう…

私の心は、そんな日 きっとやってこない。

彼女は、そう思っていた。
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