バゲット慕情


*****


「来年が創業五十年になるらしいの。

ちっとも知らなかったわ」


 翌日の仕事中に、美智子は華に言った。

華は、暇つぶしの拭き掃除を中断する。


「もうすぐ五十年ですか。

すごいですね」


 華はわずかに目を見張り、わずかに眉を持ち上げた。

観察力のない人間ならば、華の表情の変化を見落とし、冷たく話をあしらわれたように誤解するだろう。


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