押してダメでも押しますけど?
5 戸惑う初めての夜
テレビには、色とりどりの全身タイツを来た人達が、剣を振りまわして、悪者と戦っている。


隣にはそれを真剣に見つめる社長。



「・・・・・・」



私は・・・何がどうしてこうなった??






思えば、社長に『ソフレになって』と言れたのは水曜日。


ついつい社長のお願いに頷いてしまったけれど、やっぱりおかしいだろうと冷静になった私は、本当にこの話を受けて良いのか疑問に思い始めた。


そんな私の心が読めたのか、社長は、強引に話を進めた。


土曜日にでも引っ越して来いという社長を説得して、日曜日にしてもらう。


2週間とは言えども、家を空けるのだ。冷蔵庫の中の整理や部屋の掃除などやらなければいけないことは結構ある。土曜に家の片付けをして、日曜に引っ越しという流れだ。



家電や大きい家具はそのままで、2週間社長の家で暮らすのに必要なものだけ、社長の部屋に運び込む。


業者に頼むほどでもないと社長がワンボックスカーを借りて来てくれた。



衣類のつまったダンボールを軽々と持ち上げる社長に、不覚にもときめいてしまった。



「すいません。休日なのにいろいろしていただいて。」


「なんで?無理を言ってるのは俺のほうなのに、俺はお礼を言われる側じゃなくて言う側だから。」



そう言って『ありがとう』と言って笑った。



社長のマンションは、本当にうちの会社から近くて、徒歩で10分もかからない。


高級マンションの最上階の社長の部屋。



凄いと思ったのもつかの間、通されたリビングにはありえな光景が広がっていた。



モノトーンにまとめられた部屋には、大きいテレビにパソコンが3台。ローテーブルにソファーがある。


ここまでは良い。なんの問題も無い。


ただ、広いリビングの隅に大きなベットがドーンと置いてあった。


社長の部屋はワンルームではない。


リビングには別の部屋へのドアがしっかりあった。





「何で、リビングにベットがあるんですか?」




戸惑う私に社長はこう言った。





「え?移動が面倒だから。」



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