押してダメでも押しますけど?
次に目が覚めたら昼の1時だった。


明日は仕事だし、体調が悪いわけでもないのに、これ以上寝ると夜が寝られなくなる。


4時間ほどだけど、ぐっすり寝たせいか、さっきよりも顔色はずいぶん良くなった様に見えた。



そっと扉を開けると、まだ仕事中の社長の姿があった。


声をかけようかとすると、お腹が鳴った。



グゥという間抜けな音が微かに響く。


その音に、社長の手が止まった。



ゆっくり振り返って、目が合う。



「もしかして、さっきの音、お腹の音?」


「・・・・」



沈黙は肯定の証だととって欲しい。



社長はクスッと笑うと、パソコンで時間を確認した。


「もう、昼ご飯の時間だね。

 あかりも、さっきよりも顔色も良くなってよかった。

 お腹も減った事だし、何か食べようか。」



そう言われ、無言でうなづいた。



「顔、洗ってきます。」


「ん。行っておいで。」



そして、戻って来た私に社長が言った。


「近くに、美味しいパン屋さんがあるんだけど、お昼はそこにしないか?」


「パン屋さんですか?」


「うん、すごく美味しいんだ。

 あかりがここにいる間に絶対に一緒に行きたいと思ってたんだけど、どうかな?

 パン、食べれそうか?」


「はい。さっきはちょっと寝不足だっただけなので・・・大丈夫です。」



「そうか、それなら良かった。」


ホッとしたように笑う社長の顔を見て、体調不良だと嘘をついた事に罪悪感を覚えた。


嘘をついたせいで、心配をかけてしまったようだ。



「あの、ご心配をおかけしてすいません。」


「いいよ。好きな人の心配をするっていうのも、悪くなかったよ。」


「え?」



社長を見ると、優しげな瞳を視線が合う。



「まぁ、元気が一番いいのには間違いないけどね。」



そういって微笑んだ。



どうしてこの人は、サラッとこんなことが言えるのだろう。



さっき跳ね返したはずの気持ちが再び戻って来て、きゅっと胸を締め付けた。

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