あのころ

笑み

母、スミエ姉さん、兄貴、克英、。妻と娘にまことに申し訳なく思いつつ、

『私の宿業はひとつ断ち切れた。今に見ていろ必ず反撃するから。
時間はかかるだろうが実証の人生を送ると決めた。これからも
種々の難は起こる。この信心と決めた以上は死ぬまで全うする』

と一人心でお題目をあげ続けた。血だらけのサファリジャケットと
アフロヘアーを何箇所かゴムで結んでとんがり頭の血のりの髪。
なんとも異様な姿で車椅子に乗り第二日赤へ移動した。

目隠し状態で何にも見えない。明るさだけは確認できる。
風も空気も人の声も何もかもが新鮮に感じた。

小鳥のさえずり、車の騒音。町の雑踏。すべてが毛穴から染み渡る。
鼓膜から直接脳細胞を刺激する。生きてるってことはこのことか?

大きな宿命の殻がひとつばっさりと剥げ落ちた。ふてぶてしく笑みが浮かぶ。
よし頑張るぞ!のべつ暇なく心の中でお題目をあげ続けた。
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