暁天の星


【ヒナ】


シリウス…。


足が止まる。

上を見る。


一度目を閉じて、昔の記憶を反芻する。

もう一度目を開ける。



何も変わらない、暗い、暗い、漆黒の色。

無数の粒が、白く光って、流れて。



シリウスを見るとさ、あなたのことを考えるよ。

見なくても考えることあるでしょ?って屁理屈はやめてよね。



毎晩飽きることなく見る星の欠片が、どうしても手に入れたいものだった。


今はそれを必要ないと言えるのは、あたしが大人になったからなのかな?

わからないよ。
でも気持ちの面で変化があったのは確かだし。



なんだか上手く言葉が出てこない。引っかかるような感覚。

そんな底なし沼からあたしはいつまで経っても抜けられない。どうしようもない気持ちの行き場がない。


…それでも手探りで掴んだ今なの。


清々しい気持ちと言ったら嘘になるけど、それでもいつかそう思える、はず。



だって、あたしを想ってくれたあなたの雫は、これからのあたしの糧になること、知ってるから。




だからね。

もうあなたを縛ったりしない。


あの時間を忘れていいよ。

あの景色を忘れていいよ。

あの空間を忘れていいよ。


いいの。

わたしは、覚えているから。

わたしが、忘れないから。



もう十分だ。





ねえ。


星の降る綺麗な夜は、決まってあなたを思い出す。



今日もね、南の空にシリウスが光ってるよ。


綺麗な青白い光は、あたしの胸を焦がす。

そうして恋い焦がれた星に、幾度となく夢を見てきたの。


届かない気持ちを心に焼いて、今日もあたしは空を見るでしょう。



蒼き光にあなたを映し、あたしは、あの星を追いかける。




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