いつかウェディングベル

暫くすると透がお風呂から上がって来た。


私はリビングのソファーに寝そべったまま半分眠りかけていた。


「加奈子? どうした?」


「別に、考え事をしていただけ。」


「風呂入っておいで。」


透はソファーから私の体を起こすと抱き寄せた。


「しばらくこのままで」


そう言われると私は拒めなくなる。


軽く抱き寄せられ私の耳元で透の吐息が聞こえる。


「お風呂行ってくるね」


透の腕からすり抜けるように離れていった。


透は私の腕を掴んで離したくなさそうな顔をしていたが、私の顔を見つめると直ぐに手を離した。


透の熱を感じると体が熱くなってしまう。


お風呂でしっかりと体を冷やそうとぬるま湯のシャワーを浴びて心を落ち着かせた。


お風呂から上がった後、また、透は私を抱きしめるのだろうか?


昨日のことが思い出される。


考えない様に努力しても忘れられるわけがない。


それでも、いつまでもお風呂の中に居るわけにもいかず覚悟を決めて浴室から出た。


「早いな、もう少しゆっくりしてれば良かったのに。」


「それより、何しているの?」


透は寝る準備を始めたのかと思っていたが、私の期待外れになりそうだ。


少し残念に感じている私ってある意味馬鹿なのかも・・・


リビングのテーブルに資料を広げ睨めっこをしている透。


そんな透の顔は真剣で考え事をしている様子などは仕事に生きる素敵な男性の顔だ。


「仕事?」


「ああ、例の企画のね。」


「少しは進んでるの?」


私と透が再会したあの企画。


思わず透に資料を投げつけたんだ。


あの時のことを思い出すと恥ずかしくなってしまう。



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