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気持ちの器


「…さんっ、楓さんっ、」


遠くの方から聞こえてくる声。

揺すれる肩から伝わる感触。


「ちょ、起きてくださいって!指名入ってます、楓さんっ、」

「……」


グラングラン揺れる身体。

その聞こえる声にゆっくり目を開けると、目の前にアキの顔が歪んで見える。


「指名入ってますから早く」

「…何時?」

「今、19時15分っす。もう早くして下さいよ、お客さん待ってますから」

「あぁ、行く」


グッと引かれる腕。

その所為で必然的に上半身を起こし、目を閉じて俯く。

やべっ、冗談抜きですげぇ眠い。

完全に寝てしまっていた所為か身体が思うように動かない。


「楓さん、もう酔ってるんすか?」

「昨日から酒飲んでねぇのに酔ってねぇわ」

「珍しいっすね、そんな爆睡すんの。早く行った方がいいっすよ、待たせてるんで」

「行く、行く」


ため息を吐き捨て立ち上がる。

席に着く前に冷蔵庫から取り出した冷たい水を一気に喉に流し込む。

そんな事しても眠さなんか覚めねぇけど、とりあえず席に向かった。


「…おそーい、」


見覚えのある顔。夏菜が頬を膨らませて声を上げる。


「ごめん、ごめん」


苦笑い気味にそう言って俺は隣に座った。

座った瞬間、気を使ったのか彩斗が俺のテーブルに水を置く。


「もしかして、楓寝てた?」


雰囲気でわかったのか、もしくは俺のオーラで分かったのか夏菜はクスリと笑って顔を覗き込んだ。


「寝てた」


苦笑い気味にそう言って彩斗が置いて行った水を一気に飲み干す。


「だって、めっちゃ眠そうやん」

「そんな事ない。夏菜の顔見たら目冴えたし」

「じゃあ、ずっと見といて」

「会話せんでも良い?」

「なんでやねん。会話して!」


ははっ、と笑って「ちょっと吸ってい?」タバコを取り出して夏菜を見た。


「いいよ」

「今日は何してたん?」


火を付けるため顔を背けて言葉を吐き出す。

そして火を点け初めの煙が辺りを濁し、その煙を手の甲で追い払った。
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