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「あ、あんたねぇ馬鹿にしてんの?」

「してねぇけど。ところで何してんの?」


俺に用があるのは、あの事しかないだろう。

だけど平然を装って立ち上がった俺は空を仰いで伸びをし、美咲を見下ろした。

と同時に勢いよく立った美咲の眉間に皺が寄る。

そう、一瞬にして。


「何してんのはこっちの台詞だよ!!あんたこそ何してんだよ!何でスーツなんか着てんだよ!!」


張り叫ぶ声すら、もう気にならなかった。

それよりか今頃気づいたのかよ。と思うと改めてため息が出る。

言ってないにしても気づくの遅せぇだろ。


「何って仕事」

「はぁ!?意味分かんねぇ事言ってんじゃねぇよ!あんたトビじゃねぇのかよ!!」


更に大声を出す美咲の所為で、周りの視線が一気にこっちに向かってくるのが分かる。

その周囲の視線に気づいたのか、美咲は一瞬にして顔を顰め、そして俺を睨んだ。


「嘘はついてねぇよ。ってか相変わらず、みぃちゃんは口悪いよな」


思った通りの言葉を吐き出し、俺は美咲の頭をポンポンと軽く撫でるように叩いて口角を上げる。

すると美咲の表情が少し緩んだのが分かった。

ほんと、綺麗な顔してんなコイツ。

ミカが言ってたように店には高嶺の花みたいな女は沢山いる。

だけどやっぱりコイツは違うような気がした。


「つーか、よくここが分かったな」

「前、見たから…」

「へぇー…じゃあ声かけてくれたら良かったのに」

「だって…」


小さく呟き、ぎこちなく視線を逸らす美咲に頬を緩めた。


「あー…何してんのか分かんねぇ男に声かけるのもどうかって?」

「そうだね」

「そうだね。ってハッキリ言うなよ。で、なに?」


ここへ来た事も忘れたんだろうか。

思い出したかのように美咲はハッとし、鞄の中から取り出した白い封筒を俺の胸に強く押しつけた。
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