タイムトラベラー・キス

高校生の婚約者。


誰かに追われている訳でもないのに、彼の家から駅までの道を全速力で駆け抜ける。
息が苦しくなっても、足を止めることは無かった。


さっきまで起きていたこと、彼の私への態度、全てを消してしまいたいからなのかは分からない。
ただ一刻も早くこの場所から離れて、お家に帰りたかった。





――電車から降りて、久しぶりに地元の風景を見ると心が和らいでいく気がする。
この駅の寂れ具合は、10年前も変わらずか。
駅からまっすぐに歩き、右折してゆるやかな坂道を登っていく。

あの古いマンションはそのうち壊されて、新しいマンションが建てられる。
あの家は数年後に壁の色を塗り替えていたな。


家までの風景をゆっくりと眺めながら歩いていく。
坂を登りきると、クリーム色の壁をもった小さな一軒家が見えてきた。


「ただいまー」


家の中に入ると、キッチンから食欲をそそる匂いが漂ってきた。
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