今しかない、この瞬間を
「もう着くよ。」

「あ、うん。ねぇ、助けてくれて、ホントにホントにありがとう。」

「あぁ、うん。じゃ、また明日ね。行ってらっしゃい。」

「あの........。」


一人で浮かれているうち、電車は乗り換えの駅に到着してしまった。

扉が開いた途端、ホームに向かって人の波がドドっと押し寄せる。

そうなると、流れに身を任せる以外に電車を降りる方法がなくなる。


仕方がないから、それに従って降車したけど、これじゃ別れの余韻もまるで無いし、心残りのてんこ盛り。

第一、聞きたいことが、全然、聞けてないじゃん。

「近所ってどの辺なのか」とか、「いつ出勤してるのか」とか、「今日はこれから何処に行く」とか.......

てか、それより何より、名前も聞けてないでしょうが!!


でも、まぁ、同じクラブで働いてるのはわかったんだから、調べようと思えば調べられるか。

明日の午後には、また確実に会えるんだし。


そう思うと、出社するのがより楽しみになる。

どんどん期待が膨らむ。

今の私に怖いものはない。

明日から彼に会えると思えば、どんなことでも頑張れそうな気がする。


彼のことをもっと知りたい。

早く仲良くなりたい。

そして、そうなることができたなら、勇気を出して聞いてみたい。


助けてくれたのは同僚だからとしても、あの時、どうして抱きしめてくれたの?

あんなに優しく包んでくれたの?


おかげでトキメキが溢れてる。

こぼれ落ちて、あなたに向かい始めている。


だって、抱きしめられた瞬間、私は恋に落ちてしまったから。

一瞬で、心の中が、あなたでいっぱいになってしまったから.......
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