敏腕社長に拾われました。

でもこの手、いつまで繋がなきゃいけないの?

ガシッと繋がれた手を見てから、久住虎之助の顔を見上げる。それを何度か繰り返してみたけれど、なんの反応もなし。

「手、離してくれませんか?」

「ダメ」

ダメって、しかも即答で。

まあ手を握られたって、何かが減るもんじゃなし。きっとこの人に何を言ったところで、また『ダメ』って言われるのは目に見えている。

もしかしたらお金を借りることになるかもしれないからね、ここは素直にいい子でいよう。とにかく今はそんなことより、高層階からの景色を見るのが楽しみで仕方がない。

ウキウキしながら、エレベーターが目的の階に停まるのを待つ。デジタル表示が“20”を表すと、エレベーターはゆっくりと停まった。

「20階……」

そこがどんな世界なのか。想像するだけで興奮する。

「一番右奥の部屋ね。ちゃんと覚えておいて」

「はーい」

って、おいおい。なんで私が覚えておかなきゃいけないわけ? もうここに来ることはないんじゃないの? 今だって、なんで久住虎之助の部屋に連れて行かれているのかも分かってないのに。

でも、まいっか。

五百円玉無くして缶コーヒー買えなかったら、喉カラッカラだし。ちょっと水分いただいて、ついでにお金もお借りして、さっさとお暇しましょ。

なんて安易考えていたんだけど、そうは問屋が卸さないっていうのが世の常ってものでした。



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