敏腕社長に拾われました。

「それを読んで、我が社のことを勉強しておいて下さい」

「はい……」

手元に目線を落とすと、それはやっぱりパンフレットで。それをパラパラ捲ると、会社の概要や理念、沿革などがびっしり書いてあった。

秘書だからね、会社の歴史なんかもちゃんと覚えなきゃいけないってことね。

下げていた目線を上げ、秘書室を見渡す。

新しい本社棟だけあって、どこも洗練された気持ちがいいオフィス。白を基調にしたデスクは明るいこの秘書室に合っていて、仕事の意欲を掻き立てられる。

でもそれは、普通に働けたら……ってことで。

「私はまだ全然覚えてませーん」

長坂胡桃が、片手を上げて告白すれば、

「長坂さん、あなたには期待していません。自分の仕事だけを、きっちり終わらせて下さい」

と呆れ顔の宮口さん。

期待してないなんて、ヒドい言いよう。

でも長坂胡桃はまったく気にもしてない様子で、「はーい」と笑顔を見せている。

このふたりを見ているだけでも、普通には働けそうにない。そして、ここに永田さんが加わったらと思うと……。

うん、考えるのはやめておこう。気分が滅入ってくる。



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