幸せの王子

第一章

「寒い。」

11月ともなると、北海道はかなり冷え込む。朋子は、巻いていたマフラーを、更に口元まで引っ張りあげ、冷たい歩道を急いでいた。

「あーぁ。なんかいいことないかなぁ。」

空を見上げながら、そう思った。
ハァーと息を吐くと、それは白い煙になって空中を踊り出した。


しばらく歩くと、「あがつま動物病院」と言う看板が見えてくる。

そして、グレーの壁のシンプルな平屋の建物。朋子は、高校卒業後、動物好きな自分の性格を少しでも活かそうと、ここの動物病院に就職したのだ。

今年の4月から働いているので、大体半年を過ぎた所だった。
別に特別楽しいとも思わず、なるべく怒られないように、とにかく早く仕事を覚えるのに必死だった。


「おはようございます。」

今日もまた、ここの扉を開け、笑顔で挨拶をする。

さぁ、
また今日も代わり映えのない私の一日が始まるのか～

バタン！っと閉まる扉の音を聞きながら、朋子は新しい一日を迎え入れる。