この恋心に嘘をつく
朱に交われば、赤くなる

春の訪れは、待ち遠しい。

桜が咲き誇る姿は、目を奪われる程に美しく、旅立ちも始まりも、すべてを華やかに彩ってくれる。

株式会社サクラの名前は、そういった意味もあるのだとか。

就職が決まってからいろいろ調べたが、会社の名の由来が、一番心に残った。


だが今は、そんなことも吹き飛ぶほどに、気持ちが動揺している。


「これは派手だ。こっちは――違うな」


環は慣れた様子で、次々とショーケースから時計を取り出させている。


「あの…」


躊躇いがちに声をかけるが、小さすぎたのかもしれない。

環は尚も、ショーケースを見ている。


(何なのかしら…)


お昼過ぎ、環はいきなりやって来た。

連絡も無くて驚いたが、今日はバイトは遅出だから、時間はある。


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