ワケあり彼女に愛のキスを


「白雪姫の話っておかしくない? いくら王子だからって、眠ってる女の子に無断でキスとか犯罪だよね」
「でも白雪姫って、王子がキスしたから生き返れたわけだろ。アホみたいに知らない魔女からもらった毒りんご疑いもしないで食べたせいで眠ってたんだから。生き返らせてもらったんなら代償としてキスくらい許すべきだろ」
「それは……」
「そもそもおまえが言ってる白雪姫はこどもが読めるようにリメイクされたヤツだろ。もともとの話はホラーだし王子は変態だし」

「え、そうなの?」と聞き返したばかりに、舞衣は聞きたくもなかった白雪姫の元のストーリを知る事になるのだが。聞いていくうちに気分が悪くなり、臓器の名前が出てきたあたりで「ごめん……もういい」と優悟を止めた。

そんな舞衣に優悟が得意そうに「キスくらいどうって事なくなったろ」と笑うと、確かに……と舞衣が苦笑いを浮かべようとしてハタッとする。
白雪姫のキスの事ばかり討論に上げていたけれど、その前に実際にさっき優悟にキスされた事を思い出したからだ。

今更思い出して恥ずかしくなる自分もどうかと思いながらも、「こんな所でキスとか、信じられない……」と思わず舞衣がもらすと。
優悟は突然戻された話題に少し首を傾げた後、ニッと笑い「目が覚めただろ」とまた先ほどと同じような返しをした。
そんな優悟を、舞衣がキッと睨み上げる。

「あのねぇ、私だって中学生じゃないんだからあんな軽いキスで目なんか……っ」

言い終わる前にまた塞がれた唇に驚き……でも、今度は流されて堪るかとハッとし文句を言おうと優悟の胸を押す。
けれど、優悟の身体はびくともせず、しかもそのうちに舌が入り込んできたものだから、舞衣が肩をビクッと跳ねさせた。
さっきの発言は、決して軽いキスじゃなくて大人のキスで目を覚まして欲しいと言おうとしたわけじゃないのに……。
重なった舌に、文句が全部押し込まれる。

「ふ……んぅ……っ」

こんな場所で……秀一じゃない相手と。
そうも思うのに……。

目を薄く開けると、視点が合わせられないほどの至近距離に優悟の瞳が見える。
その瞳にこもった熱に……身体の内側が犯されていくのを感じた。
触れ合っている場所から流れ込んでくる想いに、体温が上がっていく。

「ん……っ」

逆らえない。
あの夜みたいに。優悟の瞳があまりに熱を含んでるせいで……手を振りほどけなかった。

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