ワケあり彼女に愛のキスを


頭を抱きかかえるようにして、もう片方の腕では肩を抱く優悟のあまりの力に、舞衣が驚きから言葉を失っていると。
優悟が掠れた声で「おまえのそういうとこ、すげー嫌い」と呟くように口にした。

それから、未だ黙ったままの舞衣に言う。

「菊池なんかより、俺を好きになれ」

腕の中から「優悟……?」と戸惑いが聞こえてきたが、それを無視して舞衣を抱き締めていた腕を緩める。
そして。

「俺も男だって、いい加減思い知れ」

声だけでなく、表情全部で戸惑いを浮かべる舞衣を覆うようにして唇を合わせた。
突然の事にぼんやりとしていた舞衣がハッとし、抵抗をしようと口を開いた途端、優悟の舌が入り込み声を塞ぐ。

「んぅ……っ」

押し返そうと胸を押すも、体格の差も力の差もあって敵わない。
力でどうにもできないのなら、舌を咬むだとかそういった手段も頭を過ったが……。

キスする直前に見た優悟の悲しそうな切羽詰まった表情が脳裏に浮かびそれを止める。

初めて見た表情だった。
一緒に住み始めてから初めて見る、ツラそうな顔だった。

「ゆぅ、……ふ、ぁ……」

だからだろうか。
だから、キスが拒めないのだろうか、と考え……本当にそれだけ?と自らに問い掛けた時。
強引なキスから解放される。

はぁ、と思わず息を落としてから、何するんだと見上げようとして……その声が喉で止まった。

「俺を、意識してくれよ……」

まるで、何かに必死で耐えるように歪められた瞳と、助けを呼んでいるように絞り出されたような声に。
突然のキスへの抗議もできないまま、舞衣がただ驚き優悟を見上げていた。


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