アクアブルーのラヴソング
彼女はかすかに震えた声で歌い始めた。
その歌声は、普段の彼女の声とはまるで違っていて、最初は少し違和感があったが、慣れてくると、知的な大人の女性が小さな女の子の声を借りて歌っているような、今までに聴いたことのない魅力的な歌声だと思った。
太ももの上に置かれた歌詞の書かれた紙を、真剣に見つめながら歌う美耶子の横顔を見ながら、ぼくは彼女のことをずっと昔から知っていたような、不思議な感覚に包まれた。
いつかテレビの超常現象の特番で、あやしげな霊能者のおばさんが、「今この人生で出会う人とは、別の人生で何度も一緒になっている」と言っていたが、それもあながちないとは言い切れないのではないかと思った。

人生には、まったく変化のないような日々が何日も続いたかと思うと、何年分もの大きさがあるのではないかと思えるほどの急激な変化が、たったの一日で起こることがある。

ぼくが美耶子と出会った日は、まさに、そんな一日だった。
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