アクアブルーのラヴソング
入口のすぐ脇で、購買のイタリア系のおばちゃんが、いつもの明るい笑顔でスナック菓子やジュースを売っていた。彼女は何故かぼくの名前を憶えていて、そのときもぼくがジュースを買いに行くと、パッと顔を一際明るくさせて、いつものように
「Hi, Kyoji!」
と声をかけた。
お金を払ってジュースを受け取ると、ぼくは人の少ないバスケットボールの観客席の上段に昇り、固い座席の上に腰かけた。
みんなが踊っているバスケットコートの奥には、手作りの装飾で彩られた、正方形の小さな舞台が設置されていて、楽器やアンプやマイクがすでに用意されている。
美耶子の、あの深い水色のエレアコも、ギタースタンドに立てて置いてある。
美耶子のバンドの出番は、今夜のラインナップの一番最初で、七時に演奏を開始するのだと美耶子から聞いていたが、ステージの前に立ててあるボードには、七時半からと書いてある。
演奏開始までの約五十分間を、ぼくは輪の中で楽しげに踊りまわる異国人たちの踊りっぷりを、ただぼんやりと観察して過ごすしかなさそうだった。
ため息をつきながらジュースのペットボキョウのふたを開けようと手をかけたとき、うしろから誰かがぽんぽんと叩いた。
「Hey!」
振り向くと、そこにいたのは、ぼくが補講の初日に、とんずらしようかと悩みながら音楽室でピアノを弾いていた時に、バンドの練習にやってきた連中のうちの、ティムという中国人の男だった。
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