死んだ恋の告げ口
はじまり
炙られるような日差しの痛い日、布張りのキャンバスとの摩擦で削れて形の変わってしまったペインティングナイフを握りしめていた。
確か、展覧会用の課題の制作だった。油絵選考の中でも僕は描くのが遅くて、ああやって自主的に休みを返上してやっと人並みの進行速度になれるのだ。
古い扇風機の、ごー、という音を聞きながら、木製のパレットの上で何度もナイフを揺らす。イメージに近い色を見つけるのに、もう何十分と時間を費やした。
頭の中に他のことを入れずに作業に没頭していると、不意に薄暗かった教室が白く瞬いた。同時に、パシャッ!というシャッターの音。
「あっ、ごめん!」
薄暗い絵画製作部屋の入り口に立つ、君の声。
申し訳なさそうな声の主を、フラッシュで目の眩んだ僕は認知できなかったが、少なくとも話したことのある声ではなかった。
不意討ちを食らって、それでも赤の他人に写真を撮られたのを察知して思わず立ち上がると、君は謝罪の続きを述べた。
「フラッシュ…焚いちゃった…」
謝罪すべきはそれじゃない。
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