痛々しくて痛い
専門医がきちんと消毒した器具で、適切な処置を行うのが正解であり、素人の俺なんかが手を出すべきではない。


でも、その時の俺は、冷静な判断ができるような心理状態ではなかったのだ。


当然抵抗されたけど、それを押さえ込むようにして叫んだ。


ホント、無駄なところで負けず嫌いなんだ俺は…。


「吐いて良いから!」


涙で霞んだ目で俺を見上げて来る綿貫に、諭すようにして言葉を繋ぐ。


「我慢できなかったら、ここに出して良いから。お願いだからじっとしててくれ!」

「だ、だって、そんな事したら…」


そこで『ゴクン』と喉を鳴らした彼女は、あれ?という顔をした。


「あ」

「どうした!?」

「骨、取れたみたい…」


途端に綿貫の体の力が抜けて、表情が穏やかになった。


それを目にした事で俺も心底ホッとして、そのまま口の周りを拭いてやる。


「…ったく。驚かせやがって…」


思わず憎まれ口を叩いた後、彼女の視線から逃れるように流し台に向き合ったけれど、内心では別の事を考えていた。


かなり苦しい思いをさせてしまった。


つーか、うら若き乙女の口内にヤローのゴツい指を突っ込むなんて…。


己の行動を思い返しているうちに、そのあまりのテンパりっぷりに、だんだん、だんだんとこっ恥ずかしくなってきた。


しかし、かけるべき言葉が見つからず。
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