砂漠の賢者 The Best BondS-3
「ゼル、行こう」

「待ちたまえ! お前の言う“あいつら”とは……!」

 追いすがる声を無視してラファエルと共にすたすたと階段へと向かうエナにゼルが追いつく。
 ちらりと横目で見たゼルもハセイゼンの言葉を受けて何やら聞きたそうな顔をしていたが、顔で態度で拒絶を主張していたエナに小さく溜め息を吐いただけだった。

「つかオマエ、ホントに大丈夫なんかよ? その傷」

 止まる気配の無い出血を心配するのは当然だろうが、エナにとって傷そのものよりも脳を侵す一酸化炭素の方が重要だった。
 毅然な態度を取ってはいたが、急に立ち上がったり怒鳴ったりしたせいで嘔吐感が追加された。

「大丈夫じゃないってゆったって、どうにもなんないでしょ」

 変調を訴える体から発せられる様々な信号の為に、どうしても口調はそっけないものになる。

「そりゃそーなんだけどよ……ったく、可愛くねェな」

 苦虫を噛み潰したような顔でぼやいたゼルは「あ」と声をあげた。

「そーいや、エナ、ジストと一緒だったんじゃねェのかよ」

 どっかで迷ってんのか、と自身の方向音痴を棚にあげてせせら笑うゼルに、エナも超絶美女に変身していたジストを思い出す。
 何やら珍しく不機嫌だったことを思えば、未だにハセイゼンの息子を虐め倒しているのかもしれない。
 ジストが見せた静かな怒りの理由を自身が取った勝手な行動のせいだと検討付けているエナとしては、報復を免れる為に是非ともリゼで憂さを晴らしておいてもらいたいところだ。
 まあ、エナの考え付いた理由は真実の理由ではなかったのだけれど。

「あー……放っとくわけにもいかないか……」

 殺さずの約束をしているとはいえジストのことだ。
 見ていないところでは何をするかわかったものではない。
 飄々と、ついうっかりしてて結果的に死んじゃった、くらいは言いそうだ。
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