砂漠の賢者 The Best BondS-3
「えー?至って真面目なんだけど。エナちゃんと居たらおもしろそうだから。それじゃ、理由になんない?」
「ホンモノのバカだな。アンタ」
「お前が言うな。単純バカ。ホラ、ちんたらしてねえでエナちゃん追うぞ」
歩き出したジストの背中をゼルが追う。
果たして、今こうしてエナを追いかけるのは義理人情のためだけなのか。
わからない。
今はまだ。
覚える寂しさも、
感じた苛立ちも、
宿る不安も。
掴めそうなその正体は今はまだ霧の彼方で。
わからないままジストを追い、エナの姿を求める。
次に顔を合わせば言ってやろう。
『てめェの気持ちだけ押しつけんじゃねェ』と。
受け取ることも覚えやがれ、と。
言ってやろうと心に決めた。
「……ゼル?」
呼ばれてゼルは少し緩んでいた自分の口元に気付き、引き締めた。
「……ンだよ?」
「何嬉しそうに笑ってんだか知らねえが」
見られていたことに何となく気恥ずかしさを覚える。
「俺は馬車手配してくるから、お前その辺でおとなしくまってろ」
言い方はやはり上から目線。
けれどこの男は、無理な注文をつけてこない。
それが妙に悲しかった。
そしてそんな自分の感情にも、おそらくこの男は気付いているのだ。
妙に勘が良いから。
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