続・祈りのいらない世界で
「…何をそんなに怒ってんだよ。ガキみてぇに」


「どうせ子どもですよ。こんな手の掛かるヤツなんかほっとけばいいじゃない!イノリなんかいなくたって、私は困らないし」



キヨがそう言うと、イノリは無言のままキヨを置いて去って行ってしまった。



キヨはただ、去っていくイノリの背中を見つめる事しか出来なかった。






素直になれない性格。


でも私を素直にさせてくれないのはイノリなんだよ?



素直になって、イノリに全部吐き出してもイノリは受け入れてくれないでしょ?


だからだよ。




イノリがいけないんだ。

チョコだってあんな渡し方しかさせてくれなかった。




ずっとわかってたけど、今日改めてわかった。


私はイノリにとって
特別でも何でもない。




イノリが優しくしてくれるのは、私がすぐ泣くからで特別な感情なんかこれっぽっちもないんだ。




「ふっ…イノリの特別になりたいよ〜…イノリがいないと困るに決まってるでしょ〜…」

「特別だよ」

「…え?」



キヨが目を擦りながら歩いていると、目の前には停めた自転車に寄りかかって立っているイノリがいた。




「知ってるか?俺、お前のチョコしか食ってねぇんだからな。有り難く思えよ」



イノリはキヨに歩み寄ると、キヨを持ち上げ荷台に乗せた。


キヨは荷台から降りるとイノリの胸に鞄を何度も叩きつける。




「特別じゃないもん!イノリだってそんな事思ってないくせに!!嘘はやめてよ!!」

「俺が信じらんねぇのかよ」

「だって…だってね、優しく涙を拭いたり、頭撫でたり…そういうのイノリは私だけに優しくしてくれるんだと思ってたんだもん…。それなのにイノリは…」



泣き喚くキヨの顔を両手で掴み、自分の顔と向かい合わせるとキヨは目をギュッと瞑って歯を食いしばって泣いていた。
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