続・祈りのいらない世界で
「美月ちゃん。かんなちゃんの様子がおかしいんだけど…」


「…カンナの事はソッとしといてあげて」


「そっとって…何かあったの?」


「カンナはきっとね、カゼの死を今やっと実感したんだと思う。

カゼの死は突然だったし、その直後に妊娠が分かって慌ただしかったから落ち着いた今、消えてしまったカゼの存在に気付いたんだよ。

だから、どうしていいのか分からないんだと思う」




もう何処を捜しても

どんなに恋い焦がれても


愛する人がこの世界にいないなんて辛すぎる。





とめどなく溢れ出る愛情を誰にぶつければいいの?


抑えきれない愛してるを何処に向かって叫べばいいの?



答えのない問い掛けが自分の中で虚しくループする。




そんな毎日を送っているカンナの気持ちなんて、私には分からない。




「…私が何とかするから今は何も聞かないで、何も言わないであげて」


「そうね。私達親が口出すべきじゃないわ。…でも美月ちゃん。あなたがそんなに責任を背負わなくていいのよ。あなたは今は、生まれてくる子の事だけを考えてあげてね」


「うん。分かってるよ」




責任なんて何も背負ってない。


私はいつも口先だけ無責任な綺麗事ばかり並べて、何も行動しないし、何も変えられていない。




『カンナ、カゼは風になったんだよ。

風は見えなくても、感じる事は出来る。風が吹いていなくても私達が走れば髪や肌が風を感じる。

だからカゼは、いつもそばにいてくれてるよ』



あの時の言葉だってただの気休めだ。




目に見えないものは不確かだし
私が言ってる事はただの綺麗事に過ぎないけど


確信出来ることや定義されたものだけが全てじゃないんだよ。




だって

愛や絆だって目には見えないけど


この世界にちゃんと存在してる。
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