続・祈りのいらない世界で
イノリは痛みに耐えているキヨを見て呟いた。



「…なぁ何で泣かねぇの?我慢するなんてお前らしくない」


「だって…もうママになるんだもん。メソメソなんか…してられな…いよっ」


「美月は今のままでいいんだよ。母親になるからって変わる必要なんかねぇよ。…だから泣け。痛いんだって素直に泣けよ、バカ」



イノリがキヨの髪を撫でて笑うとキヨは大声で泣き叫んだ。




「うわぁぁぁん!!痛いよっ…イノリ!!痛い――っ!!!!」


「…美月を泣かせたんだ、出てきたらそれ相応の仕返しをしてやるからな。覚悟しとけよ…ヨウセイ」



イノリはキヨのお腹を見つめた。



その後もイノリはキヨの腰をさすったり、キヨを支えながら病院の中を歩き回るなど、子宮口が開くよう促した。



「美月、大丈夫か?…もう少しだからな」

「うん…。苦しいのは…陽ちゃんもだもんね。私だけじゃない。だから…ママが負けちゃ…ダメだよね」



息を切らしながらもイノリに笑みを向けるキヨ。




「…ふっ。逞しい母ちゃんだな、美月は」

「でしょ?」



病院の中を歩き回ったり、雑巾がけの体勢をして子宮口を広げる運動をするキヨ。




しかしキヨに陣痛が来てから早15時間が経とうとしても、子宮口は一向に開かない。



激痛に襲われているキヨは、ベッドの上で悲痛な声で泣き叫んでいた。



「痛い――!!イノリっ…!痛いよぉぉぉ!!」



握っているイノリの手を爪が食い込む程、強く握り締めるキヨ。



体力が無くなり一瞬気を失うキヨは、あまりの痛みで目を覚ます。

それを繰り返していた。




「…っ。こんなの…拷問だ」



痛々しいキヨの姿にイノリが目を反らすと、キヨは優しく話し始めた。




「イノリが…いてよかった。イノリがいなかったら私、こんなのっ……耐えられないよ…」


「…ごめんな。手を握る以外…何も出来なくて。俺が変わってやりてぇよ」


「ふふっ。イノリには無理。…私じゃなきゃ無理だよ」



キヨは力んで震えるもう片方の手を、繋いでいるイノリの手のひらに重ねる。
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