続・祈りのいらない世界で
「…変だな。安心したら…辛くなってきた」

「まだ体は回復してねぇんだよ。…お前は本当に手が掛かる」



イノリは困ったように微笑むと、キヨを抱き上げて歩き出した。




「おんぶがいい!イノリ、おんぶおんぶ!!」

「はぁ!?ワガママ言うな」

「おんぶ〜」



イノリは渋々キヨを降ろすと、目の前に屈んだ。



つい数分前までは頼りなく震えていた背中が、今は逞しく見える。




「…イノリって面白いね」

「お前には言われたくない」



頼りなく見えたり、逞しく見えたり…

イノリの背中は変なの。




だけどどんな姿も大好きだと思えるのは、イノリだから。




「イノリ、大好きっ!」



キヨが背中に抱きつくとイノリは立ち上がる。




「俺は好きじゃない」

「じゃあ愛してる?」

「愛してない」

「え゛!?酷い!格下げ!?」



ブーブーと文句を言いながらふてくされるキヨ。


イノリは首を後ろに向けると、キヨを見た。




「…好きだの愛してるだの、そんな言葉で足りるなら毎日言いまくってるよ」




いつもは素っ気なくて

ロマンチックでもなくて


でも、たまーに甘い言葉をくれるイノリ。



それがキヨにとって嬉しい反面、恥ずかしくもあった。



「イノリ…たまに恥ずかしいよ」

「悪かったな!」





そのまま病室に戻ると、キヨのベッドの横に困り顔の医師と嬉しそうなカンナとケン、そして…


小さなベッドに眠るお猿さんのような我が子と、それを不思議そうに見つめるフウがいた。
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