続・祈りのいらない世界で
「左胸はぜってぇダメだぞ。そっちは俺専用だからな」

「うるさいなぁ!母乳が出る内は両方陽ちゃん専用だもんね」



何やらそわそわしているイノリを横目に、キヨは初めての授乳を行った。




一生懸命吸い付く小さな口。
モゴモゴと動いている鼻の下。


キヨは胸もその奥も何だかくすぐったく思った。




「…陽ちゃん、いっぱい飲んで大きくなってね」

「ごっ!」



いきなりヨウセイが変な声を出すと、イノリとキヨは顔を見合わせた。




「あはは!陽ちゃんが返事したよ。イノリ聞いてた?」

「今のはゲップだろ。…それにしても立派なゲップしたな。こりゃ大物になるぞ」



さっきまでヤキモチを妬いていた息子を、今度は愛しそうに見つめているイノリ。


その眼差しは、父親そのものだった。




「イノリ…。そんなに陽ちゃんばかり見つめてると、今度は私が妬いちゃうよ」



キヨが少し膨れっ面になりながらイノリを見ると、イノリはフッと微笑んだ。




「妬け妬け。じゃなきゃ…俺ばっかで不公平だ」



そう言って拗ねるイノリにキヨはキスを落とした。




夫婦から家族になったキヨとイノリの日常が戻ろうとしている、今日この頃。
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