続・祈りのいらない世界で
「今は祈くんが隣りにいないからよ。祈くんといる時の美月は世界で一番、可愛くなるから大丈夫」


「お母さん…」



キヨは優しく微笑む母に抱きついた。





マリッジブルーというやつなのだろうか。


大学生になってから今日まで、親から離れて上京しているのに

結婚となると少し寂しい気持ちになる。




もう、親に甘えられないのだと実感するから…。




「お母さん、私を生んでくれて…ここまで育ててくれてありがとう。私、お母さんから生まれてきたからイノリと出会えたんだもん。本当にありがとう。
沢山迷惑や心配かけてごめんなさい」



普段は言えない恥ずかしいセリフも、今ならちゃんと親に伝えられる。




「そういう事は結婚式当日に言ってよね。今泣かせないでよ」



キヨと母は涙ぐみながら微笑み合っていた。





その頃、試着室から少し離れた場所にあるソファに座っているイノリとキヨの父は、試着室を気にしながら話していた。




「東京まで遠くなかったですか?」


「いや、もっと遠いと思ってたんだが案外近かったよ」


「本当は地元で挙げようと思ってたんですが、俺と美月の気に入った式場がこっちだったんで」


「祈くんと美月の結婚式なんだ。私達のことは気にするな。2人の為なら何処へだって行くよ」



キヨとは生まれた時からずっと一緒にいる。

キヨとの思い出の中にはキヨの両親もいる。




「祈くん、華月は式も挙げずに嫁いでいってしまったから、私は美月の花嫁姿を見れるのが楽しみなんだよ。
全部君のおかげだ。ありがとう」



キヨの父の言葉を聞いたイノリは、胸の奥が熱くなった気がした。
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