わたしはあなたを、忘れない





「うん…」




控えめに答える早瀬さんに、


椎名くんは何で?と問いかける。




「私、友だちいないし、学校行っても楽しくない…」




「ふざけんな」




早瀬さんなりの一生懸命な答えに、


なせか椎名くんは怒りを露にしていて。





「作ろうとしねーで、何が友だちいねーだ。楽しもうとして、初めて楽しさが分かるんだろ」





ほら、出た。


私が好きな椎名くんのいい所。





「早瀬のために、こうやって足を運んでる奴もいるんだ。気持ち考えてんのか」





言葉を選ばず、


まっすぐ自分の思いを伝えている。


こんな彼を、一体何人が知っているんだろう。






「月曜日、待ってるから」





椎名くんは、じゃあなの一言も言わずに、


私たちに背を向けて去って行った。


…どうしよう。


早瀬さんに何て言えば。






「鈴原さん、ごめんなさい。私…」





涙を浮かべて私を見る。


その姿を見て、ふと自分と重ねた。





「ううん、全然!謝ることはないんだけど…」





早瀬さんだって、きっと学校に


来たいはずなんだよ。


だけど、不安で仕方なくて。


1人が怖いんだよね。





「月曜日行ったら…、私頑張れるかな…」





彼女の口からそうこぼれた時。


伝わった。


そう感じた。





「私がいるから」





何を思ったか、


私の口から自然と言葉が出た。


情けなんかじゃない。


同情でもない。


ただ早瀬さんなら信じられる。


不思議とそう思った。






「ありがとう」






そう言って泣き笑った早瀬さんは、


別人のように明るくなっていた。






「結子、おはよう!」





「おはよ~」





休み明けの朝。


教室には続々と人が入ってくる。


まだか、まだかと待ちわびる。


瞬間、教室内が静まり返って。


みんなの視線は。


俯きながら入ってきた、


早瀬さんに向けられていた。


ひどく怯えているような、


そんな感じで。





「ずっと来てなかった子だよね…」




「今さら来て、何なの…」





周りはひそひそうわさ話をしながら、


腫れ物を見るように早瀬さんを


見つめた。


途中顔を上げて、


自分の席を探す。


一応教えておいたからか、


スムーズに席までたどり着いた。





「……っ、」





私には、早瀬さんの背中が、


泣いているように見えて。


声をかけてあげないと。


そう思って腰を上げた。


おはよう。


そう言おうとした時。


空気を変えるような風が、


吹いたように感じて。






「っす」





目の前を通り過ぎた人が。


みんなに聞こえるか聞こえないかくらいで、


挨拶をし。


みんなに分かるか分からないかくらいで。





「あ、お…おはよう」





早瀬さんの肩を叩いた。


椎名くんは、早瀬さんの挨拶に


返すことなく教室を出て行く。


あー、もう。


何でそんなにかっこいいの。






「早瀬さん!」





私は大きな声で彼女を呼び、


机の前にしゃがみこんだ。






「鈴原さん…」





「これからよろしくね」






胸いっぱいの新しい朝が、


始まった気がした。






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